ニュースマクロ米財務省の買い戻し拡大は市場と経済に予期せぬ影響をもたらすリスク

米財務省の買い戻し拡大は市場と経済に予期せぬ影響をもたらすリスク

著者: ForexLive·

重要ポイント

  • 米財務省は今週、長期債の買い戻しを倍増させ、ベッセント財務長官は、利回りが基礎的要因を反映していないとの見方から、さらなる対応の可能性を示した。
  • 財務省の買い戻し自体は新しいものではなく、同省は2000年から2002年に買い戻しプログラムを実施し、2023年5月に再開している。現在の約4 billionドル規模は30 trillionドル超の米国債市場に比べれば小さい。
  • 買い戻しは「Bessent put」としてレバレッジ取引を促し得るモラルハザードを生み、また利回り管理が歴史的にFRBや日本銀行など中央銀行の領域であったことから、政策境界を曖昧にする。
  • T-bill発行で買い戻しを賄うと債務はより短期化し、マネーマーケットの資金を吸い上げて翌日物資金調達やレポ市場を混乱させる可能性があり、2019年9月のレポ金利の約10%への急騰を想起させる。
  • 利回りを人為的に抑えることは需要を刺激し、インフレ圧力を高めるリスクがある。信認懸念のなかで米ドルには追加の逆風となり、SOFR、週次の買い戻しカレンダー、四半期借換え発表が重要な注視点となる。
米財務省の買い戻し拡大は市場と経済に予期せぬ影響をもたらすリスク

米財務省が今週、長期債の買い戻しを倍増させた決定と、その広範な市場への影響については、すでに十分議論されている。ベッセント財務長官は、「利回りは基礎的要因を反映していない」として、必要なら省としてさらに対応を行う可能性があるとまで示唆した。

論点は債券市場の一角にとどまらない。米国債利回りは住宅ローン金利から企業の借入コストまで、あらゆる価格形成の基準となっている。そのため、世界最大の国債市場の価格を変えようとする試みは、国債市場の外でも強い注目を集める。

米財務省の措置は一見すると単純だが、そこには潜在的なリスクが伴う。したがって、当局がこのように市場を揺さぶり続けるなら、無傷では済まない動きと言える。ForexLiveの以前の論評がこちらで指摘したように、買い戻しはある種のモラルハザードを生み、資金市場にも影響し得る。以下では、後になって市場を直撃しかねない予期せぬ副作用を整理する。

モラルハザードと「Bessent put」

最初のリスクはモラルハザードであり、「Bessent put」が国債市場の下支えとして機能するという見方だ。この表現は、古くからある市場用語である「Fed put」を踏まえている。これは、1987年の株価急落後の利下げや、1998年のLong-Term Capital Management危機を受けた対応にまでさかのぼる、当局が価格下落を和らげるために介入するという考え方だ。その意味で、トレーダーや投資家に、米政権が市場に対して自分たちを後押ししてくれるという誤った安心感を与える。

しかし、前述の通り、4 billionドル、あるいはそれ以上の買い戻しであっても、30 trillionドル超の巨大な米国債市場に比べれば取るに足らない。なお、買い戻し自体は新しいものではない。財務省は2000年から2002年にかけて買い戻しプログラムを実施し、2023年5月に再開した。目的は資金管理と、流通量の少ない既発債の流動性支援とされている。したがって、トレーダーや投資家がよりレバレッジの高い、よりリスクの大きいポジションを取る姿勢を強めれば、厄介な問題を招きかねない。とりわけ、政府が常に自分たちの「最後の買い手」だと考えるならなおさらだ。レバレッジ取引が行き過ぎれば、ストレスが本格化した際に多くのトレーダーが過度に膨らんだポジションを抱えたまま取り残され、事態は本当に厄介になる。

FRBの金融政策との意図せぬ重なり

次の論点は、連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策との意図せぬ重なりだ。通常、利回りの管理は中央銀行の領域であり、歴史もその型に沿っている。FRB自身が1942年から長期米国債利回りを固定し、その仕組みは1951年のTreasury-Fed Accordで終了した。日本銀行も2016年から10年債利回りを上限管理していたが、2024年3月に正式にイールドカーブ・コントロールを放棄した。米財務省は本来、金利水準ではなく財政面を扱う役割を担うはずだが、現実にはそうなっていない。

このため、米国の政策運営において誰が何を担うのかという境界線は複雑化し、曖昧になっている。より大きな観点では、中央銀行の独立性と政府債務の管理の双方にとって重大な警告信号だ。とはいえ、市場が米国のあらゆるものを一人の人物に結びつけるようになったのは、ある意味では良いことなのかもしれない。ひとりのオレンジ色の男に。

とはいえ総じて見れば、信認の問題とちぐはぐな政策運営のなかで、米ドルには再び大きな打撃となっている。

資金市場への潜在的な脅威

また、この動きが金融システムの他の部分にどう波及するかという点もある。買い戻しは、資金市場にとって脅威となり得る。

買い戻しを実施することで、政府はある意味で金利リスクを流動性リスクに交換している。その結果、債務負担はより短い期間へと移り、財務省はT-billを通じて買い戻しを賄う必要がある。

そのため、ディーラーはより多くのT-bill発行を吸収せざるを得ず、マネーマーケットの余剰資金を吸い取るリスクが生じる。実際には、ディーラー、すなわち銀行は、より多くのT-billを保有する一方で、他の機関に翌日物資金を貸し出すための現金が減る。わずかなタイミングのずれや一時的な資金不足があるだけで、資金・レポ市場の「配管」が破綻しかねない。2019年に起きたようにである。

インフレ圧力の押し上げ

最後に、インフレ圧力を強め、市場の現実をさらにゆがめる問題がある。

債券利回りと自らの借入コストを「人工的」に抑え込めば、政府は経済にさらに資金を流し込み、需要環境を一段と刺激し続けることになる。加えて、利回りがインフレ圧力を十分に補えないというゆがみもある。その結果、現金保有が実質的に負け筋になるため、消費者や企業はそれを埋め合わせようとして支出を増やすことになり、もしこの構図がしばらく続けば物価も押し上げられる。

まとめ

要するに、米財務省の今回の措置にリスクがないわけではない。潜在的なリスクと予期せぬ副作用は存在する。ただし、それらはまだ市場にとって明白ではないだけだ。今後の注視点としては、財務省の四半期借換え発表、週次の買い戻し実施計画、国債残高に占めるT-billの比率、そしてSOFRのような翌日物資金調達金利が挙げられる。2019年に最初に警戒を示した指標でもある。