シンガポール警察官2名、ブロックチェーン記録により暗号資産犯罪を追跡
重要ポイント
- •シンガポール警察庁サイバー部隊の警察官2名は、公開ブロックチェーン記録を分析して暗号資産犯罪を追跡しており、多くの場合デジタルウォレットアドレス一つから捜査を始める。
- •2026年3月から8月にかけて、警察、暗号資産取引所、認可されたデジタルペイメントトークンサービス事業者が関与した4回の合同作戦により、720人以上の潜在的な詐欺被害者が特定され、1,890万ドルを超える潜在的損失が防止された。
- •サイバー犯罪捜査部のスペシャリストが自作したカスタムツールは、約880万ドル規模の暗号資産取引所ハッキングで盗まれた資金がプライバシーミキサーを経由した後の追跡を行い、捜査官を被疑者へと導いた。
- •警察は、AIが精巧なメッセージ、なりすまし、捏造された音声や映像を通じて詐欺をより説得力のあるものにしうると指摘している。
- •サイバー部隊は、進化する犯罪手法に対抗するため、追跡能力の構築と業界パートナーや海外機関との協力を継続している。

シンガポール警察庁(SPF)で暗号資産犯罪を追跡する警察官2名は、ランダムな英数字のように見える手がかりから多くの捜査を始める。それは暗号資産の送受信に使われる識別子であるデジタルウォレットアドレスだ。モハメド・シャリフ・アフメッド・ムンシ警察警部補(ASP)とムハマド・シャズワン・ビン・スハイミ氏は、こうした記録をたどることで捜査を支援し、不正な送金を妨害し、人々をさらなる被害から守っている。警察庁が公表した説明(Beyond the Blockchain: Two Officers Tracing Cryptocurrency Crime)による。
両名はサイバー部隊(Cyber Command)の異なる部門に所属している。シャリフ警部補はアンチ詐欺センターの暗号資産追跡チームに所属する暗号資産追跡担当官であり、シャズワン氏はサイバー犯罪捜査部(CIB)のサイバースペシャリスト(暗号資産)である。
ウォレット間の資金を追跡
シャリフ警部補にとって、捜査は詐欺被害者が警察に被害届を提出したときに始まることが多い。捜査官が把握しているのは、ウォレットアドレスや暗号資産の送金先を示す取引記録だけという場合もある。ほとんどの暗号資産取引は誰でも閲覧可能なパブリックブロックチェーンに永久に記録されるため、その管理主体についてほとんど何も分からない場合でも、その一つのアドレスが捜査の出発点となりうる。彼のチームはブロックチェーン分析を活用し、資金の流れを断つ、あるいは回収が困難になる前に資産を保全する手がかりを求めて、ウォレットやプラットフォーム間の資金を追跡している。
「ブロックチェーン分析は、一連のデジタルウォレットアドレスを、資金がどのように動いているかを示す明確な図に変えてくれます」と彼は語った。その記録から、一見独立した詐欺が、より広範なデジタル犯罪ネットワークにつながっていることが明らかになることもある。
取引の追跡は、いまだ詐欺に巻き込まれている可能性のある人々に捜査官がたどり着くためにも役立つ。被害者の中には、正当な投資をしている、あるいは信頼する相手を助けていると考えている者も。警察が接触する頃には、多額の資金をすでに送金し、さらに送ろうとしている場合もある。
業界パートナーとの先制的な作戦では、サイバー部隊はブロックチェーン分析を用いて、次の送金が行われる前に潜在的な被害者を特定する。2026年3月から8月の間に、警察、参加した暗号資産取引所およびデジタルペイメントトークンサービス事業者(シンガポールでは支決サービス法に基づきシンガポール通貨庁に認可された事業者)が関与した4回の合同作戦により、720人以上の潜在的な詐欺被害者が特定され、1,890万ドルを超える潜在的損失が防止された。この数字は、タイミングの重要性を物語っている。次の送金前に被害者にたどり着けるかどうかが、未遂に終わるか実際の損失となるかの分かれ目になる。
相手が詐欺師を本物だと信じ続けている場合、シャリフ警部補とチームは証拠を示しながら、資金がウォレット間でどのように移動したかを説明していく。こうした捜査には、真実を解明する能力に加え、忍耐と思いやりが必要だと彼は述べた。
隠蔽された送金を調べるカスタムツール
シャズワン氏は、暗号資産関連のサイバー犯罪捜査にサイバーセキュリティの専門知識を活かしている。2025年にシンガポールサイバーセキュリティ庁から出向し、デジタル証拠の調査や捜査支援ツールの開発に携わっている。オープンソースインテリジェンスとシステムやデバイスからの証拠を組み合わせ、脅威アクターの特定を行う。
商用のブロックチェーン分析プラットフォームは捜査官がウォレットの活動を把握するのに役立つが、ケースによっては既製のツールでは対応できない要件がある。シャズワン氏は、複雑な取引を分析し、犯罪者が資金の移動を隠蔽する手法を調べるためのカスタムツールを開発している。
あるケースでは、約880万ドル規模の暗号資産取引所へのハッキングが関わっていた。盗まれた資金の一部は、プライバシーミキサーを経由していた。これは資金の流れを攪乱し、どの資金が誰のものかを特定しにくくするように設計されたサービスである。シャズワン氏は自作のツールを用いてこの活動を分析し、盗まれた収益に結びつく資金を特定、捜査官を被疑者へと直接導いた。
被害者保護が中心
犯罪手法は、暗号資産およびより広範な技術環境とともに進化し続けている。警察の説明によれば、人工知能(AI)は精巧なメッセージ、なりすまし、捏造された音声や映像を通じて詐欺をより説得力のあるものにしうるという。サイバー部隊の警察官は、技術能力の強化、捜査手法の開発、業界パートナーや海外機関との連携を続けている。今後注目すべき動向は、説明自体が示すものだ。を活用した詐欺手口、追跡能力の継続的な拡充、そして業界・海外機関との協力の継続である。\nシャリフ警部補にとって、この仕事の根幹にあるのはアドレスの背後にいる一人ひとりの人間だ。「すべてのデジタルウォレットアドレスの背後には、実在の人がいます」と彼は語った。シャズワン氏は、一見不可能に見える記録を意味のある手がかりに変えること、そして自分のツールが他の捜査官の効率的な業務に役立つことにやりがいを感じていると述べた。警察が説明した合同作戦では、捜査官は潜在的被害者がさらに送金する前に接触することができた。